交差点2/3/本文5ページ目より抜粋
「静雄、腹減ったか? 時間も時間だし、そろそろ飯にすっか」
「そうっすね」
社長からメールで送られてきた午後に周る予定の回収先のリストを携帯電話で確認したトムが言うのに頷いて、静雄は自分も携帯電話を取り出した。
時刻は午後の一時。平日なので混み合う店もそろそろ空いてきているだろう。昼飯にはちょうどいい時間である。
「今日は何にすっかなー。給料も出たとこだし、ちょっと豪勢にいくか? まだランチタイムだよな」
「っす」
「よしじゃあ露西亜寿司にしようぜ。たまにゃあファーストフード以外もいいだろ」
「いいっすね」
給料日は一昨日、昨日のうちに銀行に行って金を下ろしたから、寿司代くらいはあるはずだ。
携帯電話をポケットに仕舞いながら財布の中身を思い出している静雄の背中を、ぽんとトムが叩く。
「よし、じゃあ今日はこのトムさんが奢ってやるよ」
「え、いいっすよ。俺も給料出たばっかなんすから」
慌てて手を振る静雄に、トムはにっと笑って見せた。
「とか言って、お前また相当天引きされてんだろー? 給料出た後くらいよ、俺に先輩面させろよ」
静雄が暴れて壊した道路標識や自動販売機その他諸々の費用は、全て今の会社の社長が肩代わりしてくれている。
それを分割で少しずつ給料から引かれているのだが、確かに先月は少し暴れすぎていて、手取りは生活ぎりぎりの額だ。
それでも借金を立て替えてくれている上に給料まで貰えるのだから、社長には本当に頭が上がらない。
そしてその事情を知ってこうして時折食事を奢ってくれるトムにもまた頭が上がらないだった。
そういえば中学の時もよく飯を奢って貰ったなと、静雄は中学時代に思いを馳せる。
初対面のその日からトムは食事を奢ってくれた。初めて会った相手に一体どういうつもりだと幾分警戒していたのに実際にはそこに何の裏もなく、静雄は相当驚いたのを覚えている。
それからもことあるごとに、いや何もなくても、トムはよく定食屋で昼飯やら、コンビニで肉まんやら、ファーストフードでハンバーガーやら、様々なものを奢ってくれた。
中学生なんてそう金を持っているわけでもないだろうに、と不思議に思う。
さすがに回数を重ねると恐縮していた静雄だが、静雄に食事を奢るのがまるで楽しみの一つだというように、トムは気にするなと言って笑うのだ。
単に食事を奢るのが好きなのだろうか。そんなことをしてもトムに何の得があるわけでもないと思うのだが、それをやってのけるのがトムという人なのである。